2014/05/20

おっちゃん映画、不良じいちゃん映画



シアトルは爽やかな初夏の気候です。

今年はけっこう映画を(DVDが多いですが)みてます。

最近観た映画って、おっちゃんやおじいちゃんの映画が多かった。

じいちゃん映画の筆頭は、ブルース・ダーンがアカデミー主演男優賞候補にもなった『Nebraska』(邦題は『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』)。

私の愛するアレクサンダー・ペイン監督の作品。情けなくて哀愁あふれる愛すべき中年のおっちゃんを描かせたら右に出るもののないペイン監督です。

『The Descendants(ファミリーツリー)』でジョージ・クルーニーがパタパタとサンダルを鳴らしてオアフ島の住宅街の丘をかけのぼっていく場面や、『Sideways (サイドウェイ)』のポール・ジアマッティがファーストフード店でとっときの極上ワインをテーブルの下に隠して紙コップで飲む場面は、哀愁のおっちゃん映画というジャンルがあるとするならば殿堂入り間違いなしだと思います。

『パリ、ジュテーム』に出てくる郵便局員の女の人の短編もすごく好き。

『ネブラスカ』は、「あなたに百万ドル当選!!!のチャンスがあります」というダイレクトメールを間に受けて、ネブラスカまで当選金を取りにいくと強情に言い張ってきかないまだらぼけのお父さん(ブルース・ダーン)に息子(ウィル・フォーテ)がつきあって、モンタナ州ビリングスからネブラスカまで、息子と父が二人で旅をする、というロードムービー。



一昨年の夏にサウスダコタ州までロードトリップをした時のルートに重なるし、その時にこのモンタナ州ビリングスも通ったので、なつかしかった。あのがらんとした平原の何もなさ、退屈さ。

この息子も、ぱっとしない電器店でぱっとしない仕事につき、ぱっとしないガールフレンドにフラれたばかりという、全然ぱっとしない哀愁のおっちゃん。
兄役は『ブレイキング・バッド』の、お金のためならなんでもやる弁護士ソウルを演じたボブ・オデンカーク。目はしが効く兄は地元ビリングスのテレビ局でニュースキャスターをやっていて、父の相手は弟に任せきり、だけど旅の途中のちょっとした事件を機会に彼も少しこのお父さんのアドベンチャーに参加する。

お母さん(ジューン・スキッブ)がまた強烈。
アメリカのお母さん像って、ネガティブなことを言わないのがデフォルトって感じなんだけど、このお母さんったら口を開けば朝から晩までボケたお父さんの悪口ばかり。でも橋田壽賀子ドラマに出てくるような嫌味なおばちゃんじゃない。まわりを一切気にせず自分の好きなことをズバリ言うわよ!な性格だけど、実は愛情に厚い人で、お父さんからお金をせびろうとする親戚相手に威勢の良いタンカを切ったりする。お母さんほんとに最高でした。

ペイン監督の映画に出てくる人物は、真面目にやってる姿がどこかしら完全にズレていてイケてなくて笑ってしまうんだけど、それは決して冷笑ではなくて、笑われてしまうその姿にひたひたと共感をさそわれて、愛しくて仕方ない。

『ネブラスカ』は、これまでの映画以上にほっこり度が高いように感じました。


魂が半分どこかに行っちゃっているおじいちゃんを演じたブルース・ダーンの、説得力ありすぎる演技もすごかった。じわじわ来る映画です。

それから『Last Vegas(ラストベガス)』。これもDVDで先月観た。日本では今月公開のようです。

ロバート・デニーロ、マイケル・ダグラス、モーガン・フリーマン、ケヴィン・クライン。子ども時代にいつもつるんでいた仲間が、何十年かぶりに全米各地からベガスに集まって大騒ぎというお話。

一番派手に成功している1人が30歳くらい年下の若い女の子と結婚するので、バチェラー・パーティに集まった旧友4人というわけで、おバカ映画『The Hangover (ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い)』のじっちゃん版みたいな映画ですが、『ハングオーバー』みたいな派手な仕掛けはなくて、もう全然ストレートフォワードなコメディです。

やはりこの面々が揃うと、ありがちなストーリー展開でも年の功。おっちゃんたちのドタバタな友情物語にほろっとさせられてしまう、楽しい映画でした。



もひとつは、『Grudge Match(グラッジマッチ)』。シルベスター・スタローンとロバート・デ・ニーロが、30年ぶりに対決するボクサーを演じるコメディ。ロッキー対レイジング・ブルの夢の対決ですよ。

二人とも30年前に引退して以来、スタローンのほうは職工として、デ・ニーロは昔の栄光を唯一の看板にしているしけた酒場の主として、地味な生活を送ってる。工場をレイオフされたスタローンが生活に困って電気代も払えなくなっているところを、怪しげなプロモーター(ケヴィン・ハート)にそそのかされてついその気になる、というところがリアリティあって泣ける。ロバート・デニーロの役のダメ人間ぶりも、いるいるいる、こういう人いるいる、具体的に個人的に知ってる、と感じさせるリアリティが素晴らしい。
じいさん同士の対決に世間は無関心だったのが、YouTubeの流出動画で一気にブレイクしていくっていうのもおかしい。ロッキーねたも出てくるし。



デ・ニーロ70歳もスタローン67歳も、たるたるのおなかをさらしてすごい本気のトレーニングを繰り広げて、けっこうそれも見応えが。息子とのエピソードもありがちだけど身につまされる。

これも私はすごーーく楽しめた映画だったんですが、『Last Vegas』も『Grudge Match』も、Rotten Tomatoes とかの映画サイトでは評価低いんですよねー、星2つとか。やっぱり老人に世間は冷たいのか。若いもんにはわかるめえよ(怒)。

ヒロインはキム・ベイシンガー。ほんとに60歳か?とまじまじ見てしまう素晴らしいメンテナンス。
相手が67歳でも、60代であっても、女性のほうには高いスタンダードが求められるんですねぇ。
でも60代のラブロマンスって考えてみると、かなりすごい。

だって、『東京物語』のときの笠智衆がなんと49歳だったんですよ!時代と文化が違うといっても、あまりの差にがくぜん。ひとりもののお父さんが心配で娘がお嫁に行けないっていう設定の『晩春』のときなんてまだ45歳!! 枯れ枝のようなお父さんだったけど、全然枯れて良い年齢じゃないって!

あと最後、これはもうちょっとハードボイルドなじいちゃん映画、『Stand Up Guys(邦題:ミッドナイト・ガイズ)』。

クリストファー・ウォーケンとアル・パチーノ 、そして『グラッジマッチ』でもトレーナー役で出てきた元気なおっちゃんアラン・アーキン。
30年近くの刑期を終えて出て来たギャングの仲間(アル・パチーノ)を懐かしく歓待するクリストファー・ウォーケンが、実はボスから出所したらあいつを殺せと指令を受けていて、苦悩するという話。全体に暗いトーンの映画ではあるけれど、よぼよぼで死にそうな友人(アラン・アーキン)を老人ホームから脱出させて夜の町を爆走する場面なんかは、不良じいちゃんパワーが炸裂していてすごく楽しい。



この映画はちょっとストーリーが雑な気がするけど、それでもこの不良じいちゃん3人が演じると、もうそれだけで話に奥行きを感じてしまう。 


最近のじいちゃんたちはちっともおとなしくしちゃいないし、異常に元気だ。

この3本の不良じいちゃん映画を観て、「老人の悪あがき」って感じは受けなかったのだけど、それはもしかして観る側の問題かもしれない。ワカモノが観たら、痛いじいちゃんが無理してるとしか見えないのかもしれない。少し先を老いていくじいちゃんたちの不良ぶりは、段々と残り時間を意識しだした昨今、これは全然アリでしょ、と頼もしく見えるのだけど。

これだけ不良じいちゃん映画が出揃ってるのに、不良ばあちゃん映画が見当たらない。

『ネブラスカ』のお母さんみたいなキャラクターが4人くらいでつるんで好き勝手をやらかすという破壊的な映画がみてみたい。

不良ばあちゃん映画はきっと不良じいちゃん映画以上にウケが悪いのだろうけど、きっとそのうち何年か後には登場してくれることを祈る。


↓こちらもよろしく。最近は「ランチャブルズ」についてなど。

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