2016/11/09

ブルー・バブル


きのうの夜、選挙の火曜日。

西部時間午後7時。トランプがすでに優勢をきめていて、うちの息子はひどいショックを受けていた。

<まさか本当にこんなことになるとは。>

シアトルには、本当にそう感じて心底ショックを受けているひとが多い。
うちの息子のガールフレンドも、彼女のママも、大学の先生も、ほかの友だちも。

わたしは、この結果は予想していたはずなのに、夜更けてから何年ぶりかというような、胃のあたりになにか気分が悪いものがすぅーっと落ちていくような憂鬱感におそわれてきた。

「Blue bubble」という言葉を今朝、新聞でみかけた。

この国は完全に、民主党支持のリベラルな「青い州」と、共和党支持の保守的な「赤い州」にわかれている、と思われているけど、それだけではない。
ワシントン州も、ピュージェット湾沿いの「青い」地域と、山のむこうの「赤い」地域にまっぷたつにわかれている。

青いエリアのひとたちは、赤いエリアのひとたちがトランプに熱狂する理由を理解できないし、単純にバカだと思っている。

赤いエリアのひとたちは、自分たちの危機感を共有できない青いエリアのひとたちを、限りなくのぼせ上がったバカだと思っている。

青い価値観のひとたちばかり集まるシアトルでは、その大きな「バブル」の中で、なんだかんだいってもこの国を動かしているのは自分たちと同じ価値観のひとたちだ、という安心感があったのだと思う。

今回の大統領選挙は、途中から「ヒラリーが代表するエスタブリッシュメント対 トランプが代表するアンチエスタブリッシュメント」という構図になってしまった。

この国の選挙は、特に大統領選挙は、やたらに二項対立を深刻化させる装置になっちゃった気がする。

しかもそれが、ひとりの個人のキャラクターに代表されるものだから、どんどん曖昧でセンセーショナルな方向にいっちゃう。

相手をけなすことで自分の存在意義を主張して、それを相手陣営がさらにののしるという、悪循環。これまでだってそういう構図だったんだけど、今回ほどそれがあけすけに、どんどんひどくなっていったことはなかった。

その中でマイノリティーへの中傷が、政治の言葉のなかでの既成事実になってしまった。

トランプが嫌悪と恐怖をかきたてた罪は大きいし、これから何年もその傷はのこる。

だけれど、そういう人(ヒラリーがうっかり「デプロアブル」と呼んでしまった)は確実にいるのだし、それは必ずしも決まったひとたちではない。

今回の選挙は、そういう膿を出すプロセスだったと思いたい。

ニューヨークタイムスの「トランプは良い大統領になることもできる」というコラムで、共和党支持だけどヒラリーに投票した法学部教授(ブッシュのホワイトハウスで法律顧問だった)ペインターさんは、トランプは以下のふたつの理由で「良い大統領」になることもできる、といっている。

1)少なくとも本当のバカではない、2)選挙中に約束したことはほとんど意味不明だから、たぶん実行しないだろう。

わたしもそうであることを祈る。

トランプを支持した赤いひとたちが、これで不満をいったん解消して、青いひとたちとの間に長く続く対話をはじめていける、そのプロセスのはじまりだと思いたい。

いま猫シッターをしているおうちにはテレビがないし、じぶんちのテレビも壊れてしまったので、きのうはテレビを見ずに済んでほんとうによかった。

今朝の新聞でみたトランプの顔は、熱狂する支持者ほど嬉しそうでもなかった。
彼としても、ヒラリーが勝って、自分は「選挙の不正を追求する」立場でいたかったんじゃないかという気がする。

今朝、ワシントン大学の学長から全学生あてにEメールが来てた。

 In the aftermath of this very close and highly contentious election, I want to take this moment to reaffirm our University’s commitment to our mission of education, discovery, healing and public service. I also want to reaffirm our ongoing and unwavering support toward creating and nurturing an inclusive, diverse and welcoming community. It is central to our commitment to equity, access and excellence, and it is essential to building a better future for us all. Here at the University of Washington, we hold sacred our responsibility to serve the public good, and that will never waver.

大学の、多様性とインクルーシブなコミュニティへのサポートは、絶対に揺らぐことはありませんよという宣言。

Ana Mari Cauce学長(チャンセラーじゃなくてプレジデント)は、自分はラティナでレズビアンで、だからこそマイノリティーであるコミュニティの一部のひとたちの恐れを、とてもよく理解することができる、と書かれていた。

わたしはこのメールを見て、ほろっと泣けてしまった。

なんかもう、シニカルになってる場合じゃないよね。

とにかくそれがどんなに大変なことでも、エンパシーをもって互いを理解する、たとえ合意できなくても互いの立場を尊重する、というところからしか、21世紀の文化は始まらないのだと思う。それがどうしたら可能になるのかどうか、わからないけど。

キャンペーンは終わって、これから憂鬱な年があける。

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2 件のコメント:

  1. >>
    今朝の新聞でみたトランプの顔は、熱狂する支持者ほど嬉しそうでもなかった。
    彼としても、ヒラリーが勝って、自分は「選挙の不正を追求する」立場でいたかったんじゃないかという気がする。

    そう、同じことを娘と話していました。だって、そっちの方が楽だもの。
    野党が野党でいるうちは元気ですが、与党になった途端に崩れるというは日本では良く見ますよね。
    そして、「ポジションが人を作る/変えてゆく」というのを信じる私は、これからトランプがどのように変わっていくかを見るのが楽しみです。これから1月の就任までの間にどれだけ教育されるのでしょうね。

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    1. Pさん、こんにちは!コメントありがとうございます。
      これまでのキャンペーンで言っていたことは、キャンディをばらまくおじさんみたいなもので、とてもラクだったはず。これからは本当の整合性が求められるし、言いたい放題言ったきりでは済まされない。メキシコの壁の件やモスリム拒否の件について、支持者への「おとしまえ」をどうつけていくのか。最高裁判事はほんとうにプロライフのひとを選ぶのか。オバマの政策をほんとうにすべてひっくり返すつもりなのか。大統領になっても「グローバル・ウォーミングはウソだ」と言い続けるのか。
      そしてメディアがそれをどう報道していくのか。
      わたしはとても「楽しみ」というほどには割り切れないけれど、とにかく政治への注目度が上がることは期待してよいし、それが良い結果につながると思いたいです。

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