2017/08/13

シアトルのアールデコたてもの(2)豪華絢爛エクスチェンジ・ビルディング


アールデコ建築シリーズの第2回は「Exchange Building (エクスチェンジ・ビル)」を紹介しました。
住所は821 Second Avenue。


シアトルのアールデコ建築ファン(ニッチな市場ですが、一定数のファンがいるんですよ!)の中でも人気の高いビルで、完成は1930年です。


設計者は英国生まれのジョン・グラハムさん。
以前アマゾン本社が入居していたビーコン・ヒルの丘の上のビル(元は海兵隊病院)や、ダウンタウンのMacy'sの設計も手掛けた人。

このビルは、1929年の施工当時、鉄筋コンクリート製としては米国で2番目に高い建物だったそうです。鉄筋コンクリートは当時の最先端工法だったんですね。

垂直のラインを強調するために窓をへっこませたアールデコ建築特有のデザインで、上に伸びていく力強さとスピード感が表現されています。


「エクスチェンジ」の名前は、「取引所」から来てます。

このビルはセカンド・アベニューとファースト・アベニューの間にあります。
シアトルの方ならご存知のとおり、この辺はきっつい坂になっていて、セカンド・アベニューの入り口とファースト・アベニューの入り口の間は4階分の段差があります。

(上の写真はセカンド・アベニュー側の入り口です)

その4階分を吹き抜けスペースとして穀物などの商品取引所が作られ、その取引所を見下ろすバルコニーがあったそうです。


これは1950年代のニューヨーク証券取引所ですが、シアトルのエクスチェンジ・ビルの構想は、これをもちょっと小さくした感じのイメージでしょうか。


ビルの装飾には穀物や農産物の取引所らしい意匠がいっぱい。
このレリーフにも、チェリーらしい果樹などたくさんの植物がフィーチャーされてます。


ステンドグラスも小麦のデザイン。

でも残念ながら、このビルが完成する直前に大恐慌が起きて大不況に突入してしまったため、結局この取引所は使われずじまいだったらしいです。なんて残念なビル。



これはマリオン・ストリートに面した側面。


ウインドウの上にいかにもアールデコっぽいデザインの装飾。


セカンド・アベニューとマリオン・ストリートの角からファースト・アベニュー側を見下ろしたところ。冬に撮った写真なので景色が寒々しいっすね。

ウインドウの脇のちょっとした装飾が可愛いです。



現在は角にタリーズコーヒーが入ってます。


このパネル(ビルの由来などを説明している)と文字はわりと新しく取り付けられたもので、アールデコ風デザイン。

アールデコって、1950年代〜70年代のインターナショナル・スタイルが全盛だった合理主義の時代には悪趣味な過去の遺物でしかなく、なるべく早く忘れ去りたい存在だったようで、天井の装飾を石膏ボードで覆い隠したり、デコなシャンデリアを無味乾燥で実直な蛍光灯につけ替えたりというむやみな改造があちこちのビルで行われてました。

80年代以降アールデコ好きな人が増えてきて、オリジナルのおもむきを取り戻すために、そういった無残な改造を元通りに修復する努力が始まります。

このビルも、新しい持ち主に変わってから施工当初の面影を再現するためにかなり色々修復されたのだそうです。


このビル最大の見どころはエレベーターホール。黒の大理石に金色の装飾で豪華絢爛。
エルテの世界ですね。ていうか80年代の東京のディスコみたいな感じでもある。

バブルが弾ける直前の1980年代後半の東京と大恐慌前夜の1920年代後半のアメリカは、感覚もよく似ていたのかもしれませんね。

エレベーターホールはファースト・アベニュー側とセカンド・アベニュー側にふたつあります。この時代のビルでこんなにエレベーターの数が多いビルも珍しいそうです。

照明器具はオリジナルではなくて、オリジナルをもとに作ったコピー。

エレベーターのドアは後の時代に付け替えられたものですが、それ以外の部分はかなり忠実に元通りになっているようです。


エレベーターの上にある装飾も、小麦と太陽の意匠。


こちらはファースト・アベニュー側のエレベーターホールにあるサービスエレベーター。
これが唯一残っているオリジナルの扉で、ブドウと花のレリーフで飾られています。

この扉をとっぱらって、何も装飾のない扉に取り替えてしまったんですねー。


受付にあった電話まで、むかし風。
歴史あるビルとしてのキャラクターを打ち出そうという意欲が垣間見えます。


こちらはファースト・アベニュー側の入り口。使われている大理石はミネソタ州産。「レインボー大理石」と呼ばれるマルチカラーの石で、形成されてから36億年経つという、地球上でもっとも古い岩石の一つなんだそうですよ。


玄関内部(サード・アベニュー側)の黒い大理石はイタリア産。これは精巧なラジエーターグリル。
写真がブレてますが実物はもっと綺麗です。壁の大理石もグリルの形に合わせて放射状に切って貼ってある。


このメールボックスもものすごく豪華。世界ひろしといえども、これほど豪華な郵便ばこはあまり他にないのではないかというくらいゴージャス。


まわりを小麦らしい植物がらせん状に囲み、中心には様々な植物が絡み合う豪華なレリーフ、下にはきのこ。

これはアールデコというよりアールヌーヴォーな気分のデザインですが、文字のタイプと、メインのレリーフの中心にV型の直線が引いてあるところが少しデコっぽい、ハイブリッドなデザインじゃないかなと思います。

私はやっぱりこういうアールヌーヴォー的なのが好きで、このぐるぐるした曲線のつる植物ときのこが萌えポイントです。

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